エチオピアとの共通点

エチオピアとの共通点

コーヒーの樹発祥の国 エチオピアを訪れる旅

エチオピアとの共通点

私は、今年(2000年)の1月3日から18日まで、コーヒー原産地の視察と豆の買い付けのため、エチオピアに行って参りました。エチオピアで最も古いといわれるコーヒーの樹が残る「バハルダール地区」にあるタナ湖周辺のコーヒーの村、北部のコーヒー量産地「レケムティー(ワレガ)地区、名品ハイランド・ハラールを産出する「ハラール(ディレダワ)地区」など、エチオピア国内の約3000kmを移動し、視察してきました。
エチオピアは、キリスト教(エチオピア正教)が国教になっていますが、イスラム教徒が全体の40%も占め、さらに70の部族よりなる複雑な部族国家なので、国全体がなかなかまとまりにくく、絶えずどこかで紛争が起こっている状態です。
エチオピア連邦民主共和国の国土面積は、110万4300平方キロメートル、6015万人(1997年)の人口を抱えています。コーヒー豆は、外貨獲得の70%を占め、エチオピアの最も重要な換金・輸出作物になっています。1992年に推定された生産量では、アフリカ大陸第2位にあたる21万6000トンにのぼり、そのうち約3万6000トンのコーヒー豆が輸出されています。
エチオピアは、世界のコーヒー生産量の5%を占めるといわれるコーヒー大国ですが、「プランテーション・コーヒー」として栽培される豆は、国内生産量のわずか5%にすぎません。ほとんどは、「ガーテンコーヒー」や「フォレスト・コーヒー」「セミ・フォレスト・コーヒー」として、有機肥料で栽培されるナチュラルコーヒーです。果てしなく広がる肥沃な土地は、いまだ手つかずの状態で、いわば“未開の大地”といったところです。

  • エチオピアとの共通点
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写真上:ハラール地方のハラワチャ村にあるコーヒー集荷所の風景。この地方は、気候や風土、習慣など、イエメンとよく似たところが多い。

気候や風土がイエメンによく似た、ハラール

エチオピアの優良コーヒー栽培地のほとんどは、高地(1800m~2700m)にあります。どこの栽培地も水が豊富で、緑が青々と繁り、土壌は肥えていました。  東部のハラール地方に行って感じたことですが、この地方の気候や風土、習慣などは、イエメンにとても良く似ているのです。コーヒーは、伝統的な農法をもとに栽培したアンウォッシュド(非水洗い式)のナチュラル・コーヒーで、イスラム教徒が多いこともあって、イエメン同様にコーヒーの皮穀(ギシル)も飲んでいました。カート栽培も盛んで、山の斜面に沿って、カート畑が広がっていました。  一体、誰がこんなにカートを噛むのだろうかと、ハラールの街を散策してみると、老若男女、皆、朝から節操なくカート(エチオピアでは“チャット”と呼ぶ)を噛んでいました。
コーヒーの栽培適地とカートの栽培適地が重なるため、コーヒー畑をカート畑の転作してしまう、という問題がイエメンにはありました。一瞬、「エチオピア・コーヒーもカートに取って代わってしまうのでは?」と心配になりましたが、イエメンとは少し事情が異なり、カートの栽培地とコーヒーの栽培地とが画然と分けられていましたので、当面、カートの影響によってコーヒー豆が減産される心配はないように思いました。
エチオピアとの共通点

写真上:ハラール地方・ベデノ村のコーヒー農園。大量生産はできないが、伝統的な農法のもと、質の高い豆を栽培している。

是非、アンウォッシュド・コーヒーの見直しを

私たち自家焙煎店が、日常扱っているコーヒーのほとんどは、アラビカ種のコーヒー豆です。アラビカ種のコーヒーとは、名前からも分かるように、本来、アラビカのイエメンが原産地であることを意味しています。
しかし、現在では、エチオピアが原産地であるという説が主流を占めています。私にとっては、どちらが原産地であるかは、それほど興味のないことですが、エチオピアのナチュラル・アンウォッシュド・コーヒーとイエメン・コーヒーの数多い共通点には、とても興味を抱いています。
いま、世界では中南米などの、豆面がきれいで不純物の少ないウォッシュド(水洗い式)・コーヒーが主流を占めています。
しかし、一部のコーヒー・ファンは、もう気が付きはじめているのではないでしょうか?
量を目的にした品種改良(?)と共に、無個性になってきたウォッシュド・コーヒーより、そういった品種改良をせず化学肥料も使わない、イエメンやエチオピア・ハラールのアンウォッシュド・ナチュラルの「モカ・コーヒー」の個性的で豊かな味わいと、スパイシーな香りこそが、本来のコーヒーが持っている魅力だということに・・・。
日本に出回っている、アンウォッシュドのコーヒー豆は、香りを嗅いだ瞬間に嫌な発酵臭がする粗悪な豆も多くあり、今まで誤解されていました。しかし、近年、発酵臭のない、「モカ」本来のスパイシーな香りと豊かな味を持った上質な豆が手に入るようになり、少しずつアンウォッシュド・コーヒーに対する誤解も溶けてきたように思います。
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写真上:エチオピア・ディレダワ地区にあるコーヒーの精選所。有機肥料で育てられたナチュラル・コーヒーを手作業で選別して出荷する。

“エチオピア”と“イエメン”2つの「モカ・コーヒー」

時代は廻ります、17~18世紀に、モカ・コーヒーが世界を席捲したように、また再び、モカ・コーヒーの黄金時代が廻ってくる、私たちはそんな予感がしているのです。
先日、私がエチオピア・ハラールの優良豆を仕入れて来たことを、ある大手ロースターの方が聞きつけて、「私どものエチオピア・モカも一度飲んでみてください」と、炒り豆を持って来ました。封を開けると、クズ豆、発酵豆、死豆などが20%ほどもあり愕然としました。
私が、大手ロースターの「モカ・コーヒー」のクズ豆などの多さに呆れて、自家焙煎を思い立ったのが、18年前でした。その当時と全く変わらない状況を目の当たりにして、やはり良いものは、手間がかかり、大量生産するには難しいことを改めて思いました。
モカ・コーヒーは、良質なものでも、ナチュラルゆえに、豆面もなかなか揃わず、クズ豆などもウォッシュド・コーヒーよりは手間が多くかかります。そのような理由で、モカ・コーヒーを使わない自家焙煎店は、販売量が少ないゆえに、大手ロースターにはできない、手間と愛情を込めた稀少価値の高い上質なコーヒーを作ることができ、それを最大のキャラクターにできるのです。
私は、手間がかかる「モカ・コーヒー」こそが、自家焙煎店の救世主となり得ると思います。「少量であること」の大切さ、「変わらないこと」のすばらしさを、イエメン、エチオピア、2つの「モカ・コーヒー」が私たちに教えてくれているように思います。
コーヒー原産地報告『待夢珈琲店』今井利夫
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