大坊勝次氏 珈琲のお話
現在、店舗を構えていませんので、幻となった大坊さんの珈琲が瑞浪の地で再現され飲むことが出来、また、38年の珈琲の足跡を技術、精神両面においてお話しいただきました。
大坊珈琲店は南青山・表参道の交差点すぐにありました。開店当初から手回しの焙煎機を使い自らの手で回し続けました。多い日は一日に5時間も回すこともあったそうです。
究極の手間をかけた珠玉の珈琲は、多くの珈琲マニアの方に支持され愛されてきました。村上春樹、向田邦子、糸井重里さんなどは常連だったそうです。
38年間、豆選びから、手回し焙煎、ブレンドを行い、ネルドリップで一滴一滴点て淹れる珈琲は、まさに「珠玉の珈琲」として多くの方々に感動を与え愛されてきました。
瑞浪と名古屋での2日続けての珈琲の会は、大変貴重な時間となりました。

ありがとうございました!

大坊 勝次プロフィール
- 1947年
- 盛岡に生まれる
- 1975年
- 表参道に大坊珈琲店開店
- 2013年12月
- 閉店 私家版大坊珈琲店出版(限定千部)
- 2014年
- 普及版大坊珈琲店出版
台湾にて自家焙煎珈琲店向けに焙煎と抽出を行う
閉店記念本 『大坊珈琲店』・・・大坊勝次著
・・・寄稿文より紹介(著書「大坊珈琲店」より抜粋)。
《十音の場所》川口葉子(東京カフェマニア主宰)
誰に気がねすることもなく だが背筋は少し伸ばして一杯の珈琲の深みにどこまでも没頭できるカウンターがあった
うつくしいその液体の波底へと潜っていけば濃さを増す蒼い闇 揺らめく光の花弁 翻(ひるがえ)る魚影の群れ音もなく落下してく世界のひとかけらを白い珈琲腕が受けとめ一瞬のうちに永遠があると囁きかけるのに驚いて店主をみやればん、とも言わずにポットを傾け ネルを上下しているばかり
(二)
黙って立っていることの強さいつのまにか 小さな店でそんなことも知るようになった望遠鏡をのぞいても水平線が見えないこの街では海は カウンターの仄(ほの)かな湯気のもとで点滴されている
珈琲腕の底で朝に夕に大いなる満ち引きをくりかえす潮
ひとが飲み干したあとも たとえ店が消えても幾度となくその波は寄せては返す 舌の記憶の上に点と点を結んで私は琥珀色の星座をつくろう 夜の航海でも進めるように
ん、と頷いて静かに椅子から立ち上がる
・・・文章の初めの文字を繋げていくと、
「ダイボウコーヒーテン ダイボウコーヒーテン」となります。
楽しいですね!

大坊さんのつぶやき
それはおいしい豆を買うことです。ほとんどそれに尽きます。コーヒーはどういうわけか淹れ方のウンチクばかり言われます。
それも大事ですが、豆自体で味はほとんど決まります。
─ しかし、どうやって選ぶのですか?
そのためには、自分がどういうコーヒーが好きなのかを知っていなければならないですよね。
─ それはモカとかコロンビアとか、ブレンドということですか?
どこの豆かも大事ですが、ぼくがそれよりも神経を使っているのは焙煎とブレンドです。ブレンドで最も神経を使うのは単に深煎りと浅煎りを混ぜるのではなく、単品で飲んだら深煎りか浅煎りかわからないぐらい、
ほとんど同じものを混ぜるのです。
ものすごく違うものを混ぜると違いがわかってしまいます。ほとんど違わないものを混ぜることでフワッとしたふくらみが出てきます。
─ 温度はどうですか?メニューには「当店のコーヒーは最も味がなじむ温度にしてありますが、特に熱いコーヒーをお望みの方は申し付け下さい」と書いてありますが?
うちはすごくゆっくり作るんです。そうするとでき上がりはそんなに熱くない。喫茶店はそれを温めなおして出すケースが多いんですが、ぼくはそのまま出します。
だから、「熱くないですよ」とお断りしてあるんです。熱いものだと思い込んでいると余計ぬるく感じますからね。
─ なぜ熱くしないのですか?
熱くすると苦みが出るんです。甘味を出すためにはぬるくしないと出ません。玉露と同じです。ぼくがさっきから焙煎、焙煎と言っているのも、この甘味を出したいからなんです。
─最後にこれだけは言っておきたいのですが。
作る側のぼくらがいろいろ考えるのは当然です。
しかし、お金を払って飲む側は自分流でいいんです。こんなふうな味を出さなきゃいけないんじゃないかなんていう心配はまったくいらないと思います。
取材を終えて
「あの人がこう言ったから」「本にこう書いてあったから」、そういう飲み方をもっとも嫌っているのが大坊さんである。