いつもありがとうございます。
いま日本には、世界中の優良なコーヒー豆が輸入されています。その筆頭が、カップオブエキセレンス(COE)、スペシャリティ、グルメコーヒー、プレミアムコーヒーなどです。
今回からは、世界の優良コーヒー生産地を少しずつご紹介していこうと思います。
コーヒーはモカに始まり!
皆さんは、イエメンという国はご存じでしょうか?
アラビア半島の南端にある小さな国です。
ではモカといったらコーヒー好きならば誰でもが知っていますね。モカとは本来、イエメンの紅海沿の港の名前で、イエメンのコーヒーのことをモカと呼んでいるのです。コーヒーのルーツとも言われて、コーヒーの飲用はイエメンから始まり、世界に広まっていったと言われています。
また、栽培においても、私たちの知っているほとんどのコーヒーはアラビカ種と言われるように、アラビアのイエメンで栽培された原種「ティピカ」のコーヒーが、それぞれの国に植樹され広まっていき、モノカルチャー(特定商品)のコーヒー、要するに利益を得るための商品として広まっていきました。
原種といわれる「ティピカ種」や「ブルボン種」は、香味は良いが生産性が悪いので、生産性を重視した品種改良が各国で頻繁に行われてきました。今では品種改良が進み、第4世代、第5世代まで進んでいて、ますます味より量を重んじた時代となってきたのです。
よって、この20~30年で生産方法、生産地、精製方法、品種、流通経路などなど時代と共に大きく変化してきました。
確かに世界の消費増加に伴い、品種改良によって量は安定的に供給できるようになりましたが、残念ながら、品種改良すればするほど、味わいは確実に悪くなってきたと言わざるをえません。
「量を取るか?味を取るか?」の選択で、今世界は量を取る道に進んでいるのが現状です。そんな世界のコーヒー事情を踏まえて、それぞれの国の移り変わりと現状を説明していこうと思います。
まずは、マイルドコーヒーの代表「コロンビア」です。
コロンビア・サンチュアリオ農園・・カウカ県
コロンビアには昔から強い思いがあり、私が珈琲屋を目指すきっかけとなったコーヒーでもあります。
世界のコーヒー豆の主要産地として、ブラジル、ベトナムに次いで世界第3位の生産量を誇る南米のコロンビア。人口は4340万人ほどですが、就業人口で見ると、全体の1/4である200万人以上が、なんとコーヒーに関連する仕事に就いているという、まさにコーヒー大国。しかも赤道に近い国家のため、年間で2回、収穫が可能になっています。国家における農業の生産高のうち、1/4がコーヒー栽培で占められている。
世界のコーヒー取引相場では、コロンビアマイルドという分類があるように、マイルドコーヒーの代表と言われていて、なめらかで酸味が豊かで味わいも深く、コクもあり、ストレートとしても、ブレンドのベースとしてもよく使われていました。しかし、近年は品種改良が進み、以前とは少し違った様相になりました。
① 「コロンビアにおけるコーヒーの起源」
コロンビアにコーヒーが伝わったのは1730年前後。東部の都市“タバヘ”にある「サンタ・テレサキリスト教修道院」に植えられたコーヒーノキが、すべての始まりだとされています。
1800年半ばには、内陸部のサンタンデールでコーヒーの栽培が行われていましたが、他のラテンアメリカ諸国やブラジルには大きく遅れを取っていたようです。19世紀の終わりに差し掛かると、コーヒー需要が増したことにより、サンタンデールの他、アンティオキア、クンディナマルカなどで活発にコーヒー栽培が行われるようになりました。
栽培適地は800~2300mの標高の高い山岳地帯です。アンデス山脈に沿って、南北に長く産地が広がっていますので、地域によって香味がずいぶん違います。大規模農園は少なく、90%以上が1ha以下の大きさで家族経営の小規模農園です。
当時は、原種「ティピカ種」のコーヒーを中心に、手作業による細やかな手入れや、果実を一粒ずつ収穫するなどの手間をかけた高品質のコーヒーを産出してきましたが、生産性の効率を目指し、今では様々な品種改良がなされ、香味が違ういろいろな品種が植えられていますので、現在、コロンビアと言っても一概に「この味!」ということが言えなくなってきました。
② 「コロンビアのコーヒーの特徴」
元来、原種と言われる「ティピカ種」や「ブルボン種」のコロンビアは、ボディーが強く、なめらかでバランスの良い味わい、キレのいい酸味と豊かな甘味が特徴です。ブレンドコーヒーのベースで使用したり、ストレートとしてもとてもバランスが良く、豊かな味わいは多くの方に好まれていました。
しかし、原種はさび病などに弱く、収穫量も安定しないため、さび病に強く、多収穫のコーヒー品種、バリエダ・コロンビアという品種が植えられ始めました。しかし、その品種は今までの品種と違い、香味があまりにも悪く、残念ながらそのころから「コロンビア」の香味が大きく損なわれてしまいました。
また、栽培されている品種も幾つか存在するため、地域によって香味が安定していないというのが現状であり特徴です。
② 「新しいコロンビアと、古き良きコロンビア」
コロンビアで古くから作られている品種は「ティピカ種」で、ベリーの様な香りと柔らかな酸味、チョコレートの様なフレーバーを有するコーヒーとして、世界中で愛されてきました。
しかし、ティピカ種は病害虫に弱く、収量も少ないために生産は決して効率的ではなくて利益が生み出せず、収量と利益を上げるための品種改良が度々行われてきました。そのため、より量ができる生産性の高い品種を取り入れたり、品種改良を行ったりを繰り返し、現在のコロンビアでは収穫の安定を図るため、各地域によって数種類の品種を栽培し、産地でブレンドして出荷することが一般的となっています。
現在、コロンビアで栽培されているコーヒーは「アラビカ種」です。
生産地の環境が広く、栽培されているアラビカ種の品種は多種多様で、ティピカ種、ブルボン種、カツッアイ種、カツーラ種、バリエダ・コロンビア種、カスティージョ種,ゲイシャ種、パカマラ種、など、幾つかの品種が栽培されています。
残念ながら、もともとの主力であった純粋なコロンビアの風味を有するティピカ種の生産量は全体の1割弱程度となりました。よって、今世界に流通している多くのコロンビアコーヒーの風味は、古き良き時代のコロンビアとは異なるものになってしまいました。
コロンビア・コーヒーの花
③「コロンビアの主な品種」
A) ティピカ種
ティピカ種はアラビカ種の原種とも言われていて、コロンビアで広まった原産種です。直射日光や害虫の被害を受けやすく、収穫量があまり期待できないが、味わいにおいては、すべての香味をバランスよく有しています。そのため、希少な高級アラビカ種と言えます。まろやかさと爽やかな酸味、やわらかな苦みと甘み、華やかな香りが特徴で、ブレンドしたようなバランスの良いコーヒーです。
当店は、南部ウィラ県のビジャファティマ農園のティピカ種をシングルオリジン(ストレート用)として、使用しています。まるでブレンドしたかのようにバランスが良く、オールドコロンビアの香味を有していて、まさにコロンビア・マイルドコーヒーの代表とも言える逸品です。
B) ブルボン種
ティピカ種とブルボン種はアラビカ種の2大原種とも言われています。ティピカ種がブルボン島(現レ・ユニオン島)で突然変異して生まれたブルボン種は、害虫や病気に弱く、とてもデリケートです。収穫は、隔年結実といって表年と裏年があり、毎年の安定収穫とならずに生産性は低いです。
しかし、コロンビアコーヒーの中でも味わいが濃く、甘味があり、まろやかなコクが感じられ、コーヒーらしいコーヒーと言える貴重なコロンビアとしてマニアの中ではとても愛されています。
当店は、南部カウカ県のサントゥアリオ農園のブルボン種をブレンド用に使用しています。中深煎りして、バランス良く、どっしりとしたコクが感じられ、かつ、フルーティーな甘みを有し、柔らかでありながら力強く、柑橘系の香りが感じられるコーヒーに仕上げ、ブレンドの味わいの中心となっています。
C) カトゥーラ種
カトゥーラ種は、バリエダ・コロンビア種と並んでコロンビアコーヒーの栽培の多くを占める品種です。アラビカ種のひとつであるカトゥーラ種は、ブラジルで発見された品種で、ブルボン種の突然変異によって生まれました。ブルボン種に比べて、害虫や直射日光、気候の変化に強く病気になりにくいのが特徴です。栽培には多少手間がかかりますが、ブルボン種と比較すると生産性はアップします。
生豆は小粒で、味わいはコロンビアコーヒーの中でも酸味が豊かで、香りは控えめ。強い渋みが特徴ですが、適度なコクもあります。小麦を煎ったような香り、柑橘系の酸味などはフレッシュフルーツの味を感じ、フローラルな花の香りもありますが、味わいはティピカやブルボンのような深い味やバランスは少し劣るように思います。
D) バリエダ・コロンビア種
現在の、コロンビアコーヒーの大半を占めるのがバリエダ・コロンビア種です。バリエダ・コロンビア種は、アラビカ種とロブスタ種のかけ合わせであるティモール種に、雑種とカネフォラ種の自然交配で生まれたカチモール種と、カツーラ種を交配して作られています。直射日光や霜・病気に強く、大量生産できるため、安定供給ができるのが特徴です。
生産性向上のために作られたバリエダ・コロンビア種は、品質的には香りが弱く雑味が強いため、深く焙煎すると苦みが強く出てしまいますが、生産性向上を主に品種改良を重ねた品種です。1本当たりの収穫量が多いことが特徴で、バリエダ・コロンビア種になり、作付面積は以前と同じでも、収穫量は3倍にもなったとも言われています。
しかし、そのぶん品質は二の次となり、在来種の上質なコロンビアコーヒーの特徴である、深く澄んだ味わいや甘い香りはバリエダ・コロンビアには望むことはできません。
小農家が多いコロンビアは、豆が集荷場に集められ、それぞれの豆をブレンドして出荷するので、単独の品種はとても少ないのです。シングルオリジンの在来種の農園は別として、多くの産地はバリエダ・コロンビアがベースとなってしまったために、世界のコーヒー消費国の人々は、コロンビア離れを起こし、だんだんコロンビアコーヒーの人気が低下していきました。政府が進めたこの品種導入政策は、完全に失敗となり、新たな品種の改良を余儀なくされました。
E)カスティージョ種
バリエダ・コロンビア種の失敗を取り返そうとして開発された品種が、ハイブリッド種の「カスティージョ種」です。コロンビアではかつて、コーヒーの木が冒される病、「さび病」に感染し生産量が激減した過去がありました。FNC(コロンビアコーヒー生産者連合会)のコーヒー研究所、Cenicafé(セニカフェ)の品種改良技術により開発された新品種が《カスティージョ》です。
この品種は、さび病に強く、アラビカ種の風味に近づけた豆で、コロンビア種を選別し世代を重ねて異種交配する事で生まれた新品種で、単一でのカップ評価がスペシャルティグレードに達する香味の良い品種です。
豊富な生産量とカップのクオリティを兼ね備えています。古き良きコロンビア・マイルドに「近い」と言われている味わいのカスティージョ品種は、現時点で農家の収入を守るための救世主と言われています。
本来、コロンビアコーヒーはマイルドですが、この品種のコーヒーはマイルドでありながらも一風変わった風味を持ち合わせており、コロンビアコーヒーのポテンシャルを無限に感じさせ、今後の動向が注目される品種です。
また、一方では自然の摂理に大きく逆らわず、ティピカ種やブルボン種の「古き良きコロンビア・マイルド」をサスティナブルに守る取り組み活動が一部では行われています。
当店は、ティピカ種とブルボン種を生産し続けている農園と契約していますので、古き良き原種のコロンビアを安定してお客さんに提供できますのでありがたいです。いつも、農園の方々のご苦労と熱意に敬意と感謝を思いながら焙煎しています。
コロンビア・ビジャファティマ農園・・ウィラ県
④「コロンビアコーヒーの産地」
「北部地方」
コロンビア北部地方に位置するマグダレナ、カサナレ、サンタンデール、ノルテ・デ・サンタンデールエリアは、標高が低く、気温が高い地域。コーヒーを栽培すると長時間直射日光にさらされてしまうため、高低差によって段階分けした日陰を作り、コーヒーを守る工夫をしています。
その中でも、もっとも北部に位置するマグダレナはコーヒーの歴史が深い町で、19世紀頃、外国からやってきた開拓民や国内からの移住民によって荒れ地などをコーヒー農園として開拓しました。また、20世紀にはアルワコ族などの先住民もコーヒー栽培を受け入れ、コーヒーの生産が盛んになりました。北部のコーヒーは、チョコレート風味でボディーが強く、豊かな香りと柔らかな酸味が特徴です。
「中部地方」
中部地方に位置するカルダス、キンディオ、リサラルダ、ノルテ・デ・ヴァジェ、アンティオキア、クンディナマルカ、ノルテ・デ・トリマは、雨季と乾季がある地域。暖かい地域や恵まれた土質によって、1年に2回、花をつけることができるという、コーヒー栽培に恵まれた環境が魅力です。そのため収穫も、9月から12月のメイン収穫期、4月から6月のサブ収穫期と、年2回あります。中でもノルテ・デ・トリマは、コロンビアコーヒー生産量が国内第3位を誇るというコーヒーの一大産地です。
この地域のコーヒーは、ボディーが強く、フルーティーな酸味を持っていて、豊かな香りが特徴となっています。
「南部地方」
コロンビア南部地方のナリーニョ、カウカ、ウィラ、スール・デ・トリマは標高が高く、赤道直下に位置していて、谷底から吹き上げる暖かく湿った空気によってコーヒー栽培に最適な暖かい環境を作り出しています。一日の温度差が大きいので、脂肪の豊かな優良なコーヒーができます。いわゆる高原野菜が美味しいように、コーヒー栽培としても良いコーヒーができる条件がそろっている栽培適地です。
どの地域のコーヒーも、マイルドでボディーが強く、香り豊かで柑橘系の味わいがします。酸味は柔らかで甘味が強く、ティピカやブルボンなどの原種が多く残っていて、ブラックコーヒーを飲む日本人にはとても好まれる素晴らしい味わいのコーヒーが生産されます。
当店はこの地域のウィラの農園とカウカの農園のティピカ種とブルボン種のコーヒーを毎年契約して使用しています。
【総評】
コロンビアはその昔、中南米で一番の優良コーヒーを栽培していましたが、時代と共に、質より量を求めるようになり、度重なる品種改良によって味質ともに低下の道をたどり、現在にいたっています。
コロンビアコーヒーは南北に長い国なので、産地によってずいぶん味わいが違いますし、また、品種によっても味わいが違いますので、コロンビアコーヒーを選ぶ時には、そういったことを考慮してお買い求めください。私が勧めるのは、やはり原種といわれている「ティピカ種」「ブルボン種」のコーヒーです。
とてもバランスの良い「古き良きコロンビア・マイルドコーヒー」が楽しめますよ!
これから地球の温暖化が進むと原種のコーヒーの生産は困難になり、どんどん品種改良が加速していくと予想されます。
美味しいコーヒーを飲むなら「今でしょ!」(笑)
