インドのコーヒーの種類と歴史 インドのコーヒーの種類と歴史
インドのコーヒーの種類と歴史

インドのコーヒーの種類と歴史

更新日:2020年6月24日
葉っぱ

インドコーヒーの名産地、チクマガロールの農園

いつもありがとうございます。

緊急事態宣言が解除され一安心したところに、新型コロナの第2波が少しずつ出始めましたので心配です。なかなか終息しませんし、特にアフリカや南米などコーヒー産地ではまだまだ感染拡大していますのでこれから大変です。

私は今年、長年の夢でもあった、「インドコーヒー産地視察の旅」に行く予定でしたが、新型コロナウィルがインドでも蔓延していて渡航禁止となり中止になりました。実は、8年前にもインドにいくことになっていましたが、コーヒー商社の都合により直前にキャンセルとなってしまった経緯があり、つくづく縁がないと感じています。

今年は残念ながら行けなくなってしまいましたが、今回のインド農園の方とのつながりは、「願いはいつか叶う」を改めて実感したような縁から始まりました。

当店の珈琲教室は、月に1回の6回講座で、半年で1サイクルが終了します。初めはどんな方にも「基本編」から始めていただきます。東京や群馬県、奈良県など全国から毎月通われる方もいますし、過去には埼玉、沖縄や徳島から通われた方もおみえになりました。交通費や時間を有して遠くから通われる生徒を迎えるこちら側は、「どうにかして満足していただける講座にしなければ」と、毎回とてもプレッシャーを感じながら講義をしています。

昨年の9月に東京のIさんという方が珈琲教室に入会されました。毎月東京から通っていただき、「今まで全く基本も知らずにコーヒーを淹れていたということがわかり、とても勉強になります」と、毎回喜んでいただき楽しい時間を過ごしました。3回目の時でしたか・・、講座の後の雑談で、

私が、「あとはインドに行ければコーヒーの歴史の旅が終結するのですが、インドにツテがなくてなかなか行けないのです」とお話ししたら、

「私の知り合いにインドの農園主の奥さんがいますよ。東京で珈琲焙煎所をしていて、インドコーヒー豆のネット販売をなどでしていますので、よろしければ紹介しますよ!」というお話をいただきました。

詳しく話を聞くと、インドの優良コーヒー産地の「チクマガロール」という地域でコーヒー農園をしているらしく、その農園は標高が高いところにあり、自然が豊かで今でも時々、野生の象やトラが出没するそうです。インドのアラビカ種のコーヒーは、その昔、僧侶ババ・ブータンがイエメンのモカコーヒーの種を持ち帰りマイソール地区に植樹したのです。中南米よりもずっと歴史が古く、とても重要な国なのです。マイソールはチクマガロールから車で2時間くらいのところにあり、ババ・ブータンが最初にコーヒーの樹を植えた地として、記念碑(ババブータンの丘)があるそうなのです。

机

インドコーヒー専門店「7 Beans Coffee. India」

そのインドコーヒー農園の奥様は、HIROKO・YAMADAさんという方で、インド農園の方とご結婚されて、東京で珈琲店「7 Beans Coffee. India」を開業している方です。

翌日、Iさんからご連絡をいただき、「連絡しましたので直接お電話してください」というメールをいただきました。早速、都合の良い日にち時間をお聞きして、直接電話しました。一度もお会いしたこともなくお話もしたこともない私からの電話にもかかわらず、とてもやさしく、明朗で軽快な対応をしてくれました。

「かくかくしかじか・・・・」と、インドコーヒーへの思いを一通りお話しましたら、「私にできることならご協力いたしますよ!」と言っていただきました。

とうとう繋がった!それも、インドの農園の方と直接やり取りできるのですから、これ以上のことはありません。

その後、7 Beans Coffee. Indiaで扱っている生豆を送っていただきました。豆の精製は綺麗で素晴らしく、豆の質もよくて、早速、数回テスト焙煎を繰り返し新商品としてお店に並べました。 チョコレート感が強くまろやかでソフトな香味豊かな味わいのコーヒーでした。10年ほど前に一時的に入荷して扱ったインドアラビカの時も、その癖のない香味に多くのお客さんが喜ばれたように、インドアラビカの上質な豆は素晴らしい香味を有する一級品なのです。追加注文をしましたが、お客様のリピート率が高く、あっという間に売り切れてしまいしました。

3回目の追加注文の時に、「実は私どもも在庫が少なってしまい、しばらく豆がお分けできない」と言われました。但し、3月にはニュークロップ(新物)が輸入されるので、それまで待ってくださいとのお話でしたので楽しみにしていました。しかし、インドでも新型コロナウィルが大流行して輸入がストップしてしまい、いまだにニュークロップは入荷しておりません。

こうなると、当然のごとく、今年のインドコーヒー視察旅行も中止となりました。ようやく行ける!と思っていたインドですが、またもや夢と化したのです。しかし、今回は相手がインド農園主の方ですので、この縁を大切にして、新型コロナウィルがおさまれば、またいつか行けると信じて楽しみに待っています。

林

チクマガロールのコーヒー農園風景

さて、インドですが。
多くの方はインドといえば、紅茶の国を連想されるのではないでしょうか?

以前にも書いたように、インドは紅茶栽培よりもコーヒー栽培の歴史が古く、17世紀にイエメンから持ち込んだアラビカ種(ティピカ種)のコーヒーの種を、西南部のマイソール地方(現カルナタカ州)に植樹してコーヒー栽培が始まったといわれています。それが始まりでコーヒーの産地として栄えたのですが、コーヒーの大敵「サビ病」に侵されてほぼ全滅し、仕方なしに紅茶栽培に切り替えたといわれています。

その後、在来種のコ-ヒーをもとにした品種改良によってサビ病に強いアラビカ品種を植え、また、香味は劣るがサビ病に強いロブスタ品種(インドの70%の生産量)に切り替えたりして、コーヒー栽培の復興を遂げたのです。今では、生産量世界7位までになりました。

現在の主な優良生産地域は、インド南部の西ガーツ山脈周辺(バンガロールなど)、標高1000m以上の高地です。歴史や生産量の割には日本ではなじみが少なく、不思議と扱っている店も飲んでいる方も少なくあまり知られていません。当店は25年前からインドコーヒーを扱っていますが、アラビカ種の良いものになかなか出会わなくて、この数年は「インド・モンスーン・マラバールAA」という歴史的にも製法的にも特殊な豆だけを提供しています。

《インド・モンスーン・マラバールAAコーヒー》

インドにおけるコーヒー豆の歴史は古く、1600年代と言われています。アラビア僧侶の間で飲まれていたコーヒーは、イスラム聖職者によってインドに伝わりました。インドのイスラム教聖者ババ・ブータンが、イエメン巡礼の後、モカコーヒーの豆をこっそり持ち帰りマイソール地方で繁殖させたのが始まりだといわれています。

その後、時代は大航海時代に入り、コーヒーがヨーロッパで大流行すると、インドではスパイスなど香料と共にコーヒーも輸出するようになりました。船でインドからアフリカの喜望峰を回ってヨーロッパへ向かう航路は、赤道をまたぐため湿気が多く、非常に暑く、その行程には約半年間くらいかかりました。長期間船底で保管されるコーヒー生豆は、ヨーロッパにつく頃には熟成乾燥し「黄金色」に変化していったのです。モンスーンコーヒーが「黄金コーヒー」と呼ばれる由来はこの生豆の変色を示したのです。

その「黄金コーヒー」は、色だけではなく、ほかのコーヒー豆にはない独特の風味と香りを醸し出し、イギリスをはじめヨーロッパの人々に人気となりました。これがモンスーンコーヒーの始まりなのです。
その後、船の輸送条件が良くなると、モンスーンコーヒーは消滅していきました。しかし、モンスーンコーヒーの独特な香味を多くの人々が懐かしみ望んだため、現地で何とか同じものができないかと、いろいろと試行錯誤しました。インドは、乾季雨季のある熱帯性気候で、雨季に内陸に向かって湿気が多い貿易風(モンスーン)が吹きます。優良産地カルナタカ州バンガロールで収穫したコーヒーチェリー(果実)をパーチメント(内果皮)状態で、南西部の海に面したケーララ州の「マラバール海岸」に運び、海から吹く貿易風を使って、現地でモンスーンコーヒーを生産する方法を見つけたのです。

まず、風通しの良い屋根付きの床など雨のあたらないところで、1週間くらい海からふきつける湿気を含んだ貿易風(モンスーン)にさらします。その後、コーヒー豆を麻袋に詰めて一定の間隔を空けて均等に並べ麻袋の間に空気の通り道をつくります。週に1回程度の割合で。豆を入れ替えたり、積み替えたり、並び替えたりして黄金色となるまで熟成乾燥を繰り返します。そうすることで豆の体積は増え、重量は減少したカラカラで独特な風味を醸し出す、当時のような「黄金のコーヒー」が出来たのです。

近年、インドの研究グループによると、モンスーン・コーヒーは、果実から生豆を精製するまでの保存期間に生じる変化なのではと報告しています。果肉除去し、ミューシレージ(粘質)が付着したパーチメント(内果皮)を、高温高湿状態で並べることによって、ミューシレージの糖分が発酵し、あの独特の香味が生じるのでは?といわれています。ミューシレージをつけたまま乾燥させる方法は、昨今、世界の生産地で流行しているパルプド・ナチュラルプロセスやハニープロセス、ワイニープロセスと共通しています。

《インドコーヒー豆の栽培》

インドのコーヒー豆栽培に関わる生産者は、約25万人。
その9割は小規模農家で、4Ha以下の農園で、アラビカ種とロブスタ種のコーヒーが作られています。

① 「アラビカ種のコーヒー豆」は全体の30%程度作られていて、ケント種やカティモア種、S795種などの品種改良された病気に強いコーヒー豆です。18世紀から19世紀末にかけて、インドを始め世界のコーヒー農家を苦しめ続けてきた「さび病」の対策をするために、品種改良を積極的におこなったのです。日照量の高く気温が高いインドでは、山の斜面にコーヒーノキを植え、シェイドツリー(日陰樹)による栽培を行っています。

② 「ロブスタ種のコーヒー豆」は全体の70%程度作られています。病気に強いのが特徴で、標高が低く高温でも栽培することができ、アラビカ種に比べて栽培が容易と言われています。葉が大きく一度に実がたくさんつくため、1本の木からの生産量が多い。麦茶のような独特の香ばしい味わいと強い苦味が特徴で、酸味が少なく香りや甘味がアラビカ種に比べて弱いので、ブラックで飲まれることはほとんどありませんが、アイスコーヒーやエスプレッソコーヒーに少量ブレンドすると、キレの良い軽やかな苦みがバランスよく美味しいコーヒーとなります。

インド「ロブスタチェリー」

インド「ロブスタチェリー」

インド「プランテーション」

インド「プランテーション」

インド「モンスーン・マラバールAA」

インド「モンスーン・マラバールAA」

《精製と等級》
※ 精製方法や品種によって分けられています。

《ロブスタ種》
◎パーチメント     ロブスタ種のウォッシュド(水洗処理)したもの。
◎ロブスタチェリー   ロブスタ種のナチュラル(非水洗処理)のもの。

《アラビカ種》
〇プランテーション アラビカ種のウォッシュド(水洗処理)したもの。
〇アラビカチェリー アラビカ種のナチュラル(非水洗処理)のもの。
また、サイズや採れた標高によって品質の良いものから、AA、A、B、B以下、PBと格付けされています。

《モンスーンコーヒー》
• モンスーン・マラバールAA
• バサナリーなど

《味の特徴》
「インド・アラビカ」
やさしくて柔らかな味わいのマイルドコーヒーです。
ハイローストにすると癖がなくとても飲みやすいバランスの良いコーヒーです。深煎りにすると、チョコレート風味がしてとても滑らかで深い味わいのコーヒーになります。

「インド・ロブスタ」
ロブスタにしか味わえない独特の風味と切れの良い苦味が特徴のコーヒーです。インドやインドネシアのロブスタ種は、アフリカやブラジルのように、一般的に言われている苦味だけの低級品とは違い、とても豆の質も精製度も高い良いものが作られています。
物によってはアラビカ種以上の味わいや値段のロブスタ種があるなどバラエティーに富んでいます。
今では珍しい、ハニープロセスで甘味をつけてフルーティさを感じさせるロブスタまで登場しています。
地球の温暖化が叫ばれていますが、コロンビアやブラジルなどの私たちが知っているほとんどのアラビカ種のコーヒーは、気温が30度を超えるところではできません。温暖化が進むと何年、何十年後に、今の産地でアラビカ種の良品はできなくなるでしょう。したがって、美味しいアラビカ種のコーヒーを飲むなら今しかないのかもしれませんよ!
一方、ロブスタ種は高温でも収穫できるので、これからはロブスタ種の時代が来ると私は思っています。

「インド・モンスーン」
特徴は、独特の強い個性豊かな香味です。これは、精製方法からくる香味で他のコーヒーとは全く違いますので、好き嫌いがはっきりとわかれます。酸味はほとんど感じられませんが、ほのかな甘味があり、独特な風味とスパイシー感がある。

浅煎りにすると、ワラのような植物系の軽やかな風味と口当たり、好みがはっきりと分かれるような独特な香味が特徴となります。深煎りにすると、芳ばしい香り、まろやかなコクと芳醇な味わい、モンスーン特有の香味が感じられます。エスプレッソにすると軽やかな苦味がほどよく評判が良いようです

当店は、酸味が少なく甘みが感じられ独特な香りを楽しんでいただけるように浅煎りに焙煎していますが、扱っているほとんどの自家焙煎店は、深煎りに焙煎していているようです。

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いずれにしても、コーヒーは嗜好品の飲み物です。高い安いではなくて、自分の好みのコーヒーを選んで、好みの淹れ方で、好みの飲み方で飲めばよいのです。しかし、コーヒーの歴史や背景を知ることで、生産者や豆に対する思いが加味され、一味も二味も良くなり楽しみが広がりますよ。

※インドコーヒー農園写真提供、「7 Beans Coffee. India、HIROKO・YAMADA」

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