「ブルーオニオンコーヒーカップ」マイセン
いつもありがとうございます。
飲食店の時間短縮要請によって、新型コロナウイルスが少しずつ収まり始めたようですが、解除されてまた元の木阿弥とならないようにしたいものです。変異ウイルスも何種類か発見されましたので、まだまだ収束とはならないようです。
4月から珈琲教室「基本編」が再開されます。一年以上お待ちいただいた方も多く、その方たちはこの一年の間、自分流に自宅で訳も分からず淹れていたのですから、大変申し訳ないと思っています。
当店の珈琲教室はドリップ(透過法)が主体の教室になります。まず初めに参加された方に、日ごろの淹れ方で、全員が同じ条件のコーヒーを一杯ずつ淹れていただきます。実は、25年以上教室を行っていますが、初めから正しい淹れ方をした方は一人もいません。中には「よくぞこんな淹れ方を思いついたものだ!」と、びっくりするやら、感心するやら・・・様々な淹れ方をします(笑)
受講される生徒さんには、当店の豆を何年にもわたってお買い求めいただいている方も多く、「当店のコーヒーをこの淹れ方でずっと飲んでいたんだ⁉」と、ゾォッ!としてしまうことも少しではありませんでした。
コーヒーの淹れ方は難しくありません。基本さえ覚えてしまえば簡単です!基本さえ覚えられれば、誰にでも自分に合った、自分の飲みたい美味しいコーヒーが簡単に淹れられます!但し、「基本」とは、淹れ方だけではなく、コーヒーの始まりの歴史、植物としてのコーヒー豆など、一杯のコーヒーになるまでにかかわるすべてを理解しての「基本」です。
月に一回の講座を6回受けるだけで、コーヒーの基本が理解でき、カッピング力も習得でき、どんなコーヒーでも淹れられるようになるのです。一人でも多くの方にコーヒーの基本を知っていただき、美味しいコーヒーを淹れ、楽しいコーヒー時間を持っていただきたいものです!
さて、どんなに良いコーヒーを淹れても、そのまま飲むわけにはまいりません。良いコーヒーには良いコーヒーカップがつきものです。今回はカップのお話をさせていただきます。
陶器製のカフェ・オ・レ・ボウル
コーヒーカップとその歴史
コーヒーが主役ならばカップは脇役というところでしょうか。しかし、主役を生かすのも殺すのも脇役次第なのです。但し、主役のコーヒーが良質で新鮮なエキスでなければ、どんな良いコーヒーカップに注いでも、良いコーヒーにはなりません。逆に、コーヒーがいくら良くても、欠けた湯飲み茶わんや紙コップで飲んでも美味しくはなりません。さらに、その逆であってもおいしく飲むというシチュエーションにはなりません。
たとえば、缶コーヒーやインスタントコーヒーをマイセンのカップに注いで飲むなどは、バランス的にどうかと思いますよね。要は、珈琲とカップは共にマッチしていなければならないのです。「これしかない!」というものではなく、いろいろなマッチングが存在します。また、好み(嗜好)がありますので、一概には申しあげられませんが、わかりやすく申しますと・・・夫婦や恋人の関係とでも申しましょうか?・・かえって複雑でわかりにくいかな?(笑)
陶器製と磁器製の違い
陶器のコーヒーカップは材質の違いで2種類に分かれます。よく、陶器を土もの、磁器を石ものと言います。陶器と磁器の大きな違いは、その原料となる粘土の違いです。陶器はカオリンを含まない粘土(土質)を低温で焼いて作られるのに対し、磁器は石質即ち長石が主成分を成している磁土を高温で焼いて使うのが、大きな特徴です。
陶器の起源は古く原始時代の土器から始まりますが、磁器が発明されたのは比較的遅く、北宋(960~1126)の景徳皇帝の時代(1004~1007)ころと言われています(その磁土は、「カオリン」と呼ばれています)。また、焼成温度は陶器より磁器のほうが100度くらい高いのが普通です。陶器は主成分が粘土、磁器は主成分が陶石(とうせき)という石の粉末で、陶石の方が耐火度が高いのです。陶器は800度~1250度 磁器は1200~1400度(せっ器は1000~1300度)。
焼き方は、大きく分けて酸化焼成と還元焼成があります。酸化焼成は、空気を多くして青っぽい炎で焼くもので、還元焼成はその反対に空気を少なくして赤黒い炎で焼くものです。陶器は、酸化焼成と還元焼成をともに使って焼成します。磁器は還元焼成です。酸化焼成にすると、黄色っぽくなるので、白い生地を見せたい場合、普通は行いません。
陶器と磁器の見分け方
陶器を土もの、磁器を石ものというように、陶器は温かい味わいや表面の素朴な風合いが楽しく、逆に磁器は白くガラスのような滑らかさ、硬さが特徴です。具体的には、陶器は、日本では信楽焼、萩焼、備前焼などがあり、西洋ではデルフト焼などがあります。磁器は、日本では普段よく見掛ける美濃焼や伊万里焼、西洋ではマイセンやリチャード・ジノリほか、多くの名窯が製造しているような白くて光沢のある表面のもの、中国や韓国の青磁や白磁などがあります。
1. 磁器の色は、基本的にはほぼ白色です。
陶器は、色釉によって白、赤、黒、青、緑等多種多様な色があります。
2. 音は、フチを指ではじいてみると陶器は鈍い音がします。磁器はピンピンとかカンカンとか金属製の高い音がします。
3. 透明性は、日にかざしてみると 陶器は透けません。磁器は若干透けて見えます。
4. 吸水性は、陶器は若干しみこみます。磁器はほとんどしみこみません。吸水性が高い陶器は、萩の七化け等のように味が出てくるのが特徴です。
5. 貫入(細かなヒビが入ること)について、陶器は透明釉など厚くかかった釉薬(ゆうやく、うわぐすりのこと)に顕著に出ます。磁器は上薬が薄いので肉眼ではほとんど見えません(実際には微細な貫入が入っているのですが)。
また、壊れ方や様子にも違いが見られます。陶器はフチや肉厚の薄い部分が壊れやすいのに対して、磁器はそのような傾向は無く、その硬さゆえ壊れると角がたち、角度が鋭利なため触ると危険です。
6. 貫入は釉と素地の収縮率の差により、焼成後の冷却時に生じた釉のヒビのことで、キズではありません。
7. 作品をひっくり返して丸い輪の部分、これを高台(こうだい)と言いますが、高台が茶色くざらついているのは陶器、白くてなめらかできれいなのは磁器だ、と大まかに判別できます。
・・など、陶器と磁器は違います。
陶器のほうが歴史が古く、磁器のほうは歴史が浅いのです。どちらのコーヒーカップが良いかは好みの問題ですが、一般的には白磁の薄手のカップのほうが、味がわかりやすく良いとされています。また、磁器のほうが高価でもあります。
いずれにしてもコーヒーカップの歴史をたどるとコーヒーの歴史がみえてきます。
「18世紀のアンティークティーボウル」マイセン(カイロにて購入)
コーヒーカップの歴史
カップの歴史はコーヒーや紅茶の歴史でもあります。カップの文化は磁器なしで語ることは出来ません。
お茶と共に中国からヨーロッパに磁器が伝わる以前は、ヨーロッパでは主に金銀、スズ、真鍮、銅、木などの食器が使われていました。現在でこそ、コーヒーカップの代表であるヨーロッパのマイセン、ロイヤルコペンハーゲン、ウェッジウッド、などですが、もともとのルーツを辿ると、中国の景徳鎮(現在の景徳鎮市)が始まりなのです。
西欧に中国製の磁器が輸入されたのは17世紀。中国からお茶を運んだ商船が、磁器をバラスト(船の安定性を保つ為に積む荷物)として大量に運んだのが最初だと言われています。オランダが、中国から大量の磁器をヨーロッパに運び込むと、またたくまに当時の王侯貴族たちの間に広まっていきました。お茶との出会いは、同時に磁器との出会いでもありました。
薄く、軽く、固く白い磁器はヨーロッパの人々を魅了しました。厚手で重い陶器しか知らなかったヨーロッパの人々は、東洋から来た磁器の素晴らしさに驚いたそうです。英語で磁器の事を「china(チャイナ)」または「chinaware」と呼ぶのは、それが中国から運ばれたものだからだそうで、中国や日本の磁器がとても人気を博しました。当時の中世ヨーロッパには、もともと高温で焼く硬質の磁器を作る技術がなく、オランダのデルフト焼、イタリアのマジョルカ焼などの陶器などが古くから作られていただけで、高温で焼く磁器質のものはできませんでした。
当時、磁器は「白い金」と呼ばれるほど高価でもあったようです。そしてこれらの磁器は、茶と共にたちまち西欧の貴族階級に広まり、コーヒーや紅茶は磁器で飲むという習慣が一般的になりました。
19世紀にトルコで作られたコーヒーカップ(カイロにて購入)
当時、中国から運ばれた磁器のカップには受け皿がついておらず、カップには把手がなく、またカップのサイズも非常に小さな茶碗型でした。それはおそらく中国茶用の茶器を代用していたといわれています。ほとんど一口で飲みきれてしまうほどの大きさで、これは当時、茶が薬として扱われていた事を表しています。瞬く間に中国製の茶器は西欧で爆発的な人気となりました。
1644年、中国では「明」が滅んで「清」の時代へ移行する期間に国情が不安定になり、中国での陶磁器の生産が減り、茶器の供給が不足しました。その代用品として日本の有田焼に注文が来ました。オランダは、1659年と1677年の二度にわたって合計165,000組のカップと受け皿を日本の伊万里に注文をしました。
それまでヨーロッパの人たちは、中国茶の茶器でコーヒーを飲んでいたのですが、日本の有田焼は、トルコやエジプトの金属製の取っ手をヒントにして、それまでの取っ手の無いカップに取っ手をつけてコーヒーカップとして今のスタイルを作り上げました。
いかがですか!!コーヒーカップに取っ手をつけたのは実は日本人だったんです。1659年から30年ほどの間に伊万里焼(有田焼)の日本人によってつけられたと言われています。これによって、さまざまな大きさと形状のカップが製造されるようになり、TPOに応じて使い分けがされるようになりました。
フォーマルなお茶会においては伝統的な把手なしの小型カップが使われ、ティーやコーヒーなどのカジュアルな場合には、把手つきのカップが用いられました。18世紀の終わりには、ほとんどのカップに把手がつきました。
17世紀、初めてカップに取っ手を日本人がつけた!?
ヨーロッパで初の陶磁器製造
当時、陶磁器製造はヨーロッパではできなくて、中国や日本に頼るしかありませんでした。そこで、何とかして自分達でも陶磁器の製造ができないか?と、いろいろな試みをして、1709年、ついに錬金術師の手によって、ヨーロッパで最初の磁器を作ることに成功したのがマイセン窯でした。1710年にドレスデンに設立された「王立ザクセン磁器工場」がヨーロッパの陶磁器の始まりといわれています。
次回は「ヨーロッパのコーヒーカップ」をご紹介します。
