韓国仁川「コフィアシンドローム Coffea Syndrome」金奈怜さん
いつもありがとうございます。
コロナウィルスが世界中に伝染して大変な事態になっています。私達飲食店はお客さんの熱を測ったり渡航履歴を訊いたりできませんので、保菌者かもわからず、誰でもご来店された方をそのまま受け入れるしかありません。店で出来ることは、常時、ドアの取手やテーブルをアルコール消毒することしかありません。スタッフ全員がマスクをするところもあるようですが、当店はしていませんが最近は装着した方が良いのかとも考えています。
この地域で発生したらもう店を閉めるしかないと、不安を抱えながら営業を続けています。いずれにしても早く終息することを願うばかりです。
さて、昨年11月に韓国の金奈怜(キム・ナレ)さんをお呼びして、「日本の100年カフェと韓国の珈琲事情と韓国のコーヒー文化、コーヒーの多様性への探求」というテーマで講演をしていただきました。金さんは日本で珈琲の勉強や修行を重ね、豊かな才能と天性の味覚で、様々な資格を取得している珈琲界のスーパースターといっても過言ではありません。
金さんのネルドリップ抽出
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【金奈怜(キムナレ)プロフィール】
韓国からソウル芸術大学を卒業した後、日本に留学。尚美学院大学大学院修士課程を経て同大学で学長秘書として勤務。以降、カフェバッハの田口護氏から焙煎を学び、大坊珈琲店のマスターだった大坊勝次氏にネルドリップを学びました。コーヒーの他に磯淵猛氏に紅茶を学びました。日本と韓国で行われるコーヒー大会で審査員として活動しています。
日本で学んだコーヒー焙煎、抽出技術に関する知識をもとに韓国で多様なコーヒーの味を知ってもらうために2017年韓国に帰国。
仁川でコーヒービーンズショップ「コフィアシンドローム Coffea Syndrome」をオープンしました。インチョン地域のコーヒー文化の発展を目標に地域の人々と共に成長することを目指して日々コーヒー作りと教育に励んでいます。
★経歴
韓国ソウル芸術大学卒業
日本尚美学園大学首席卒業
尚美学園大学大学院修士課程
現在バッハコーヒーグループ所属/韓国で第一号店経営
*Japan Hand Drip Championship 2016、2017、2018、2019 審査員
*Japan Brewers Cup 2016、 2017、2018、2019 審査員
*Japan Siphonist Championship 2016、 2017、 2018、2019 審査員
*Japan Coffee In Good Spirits Championship 2017 審査員
*Japan Barista Chanpionship 2018 審査員
*Espresso Italiano Champion 2017 inJAPAN テイスター
*Korea Brewers Cup 2017、2019 審査員
*Korea Latte Art Championship 2018 審査員
*Korea Coffee Roasting Championship 2018 審査員
*IIAC主催 2017国際コーヒーテイスティング(ICT) ゴールデンメダル受賞
*Master Of Café Top3
★関連資格
*JCQA コーヒーインストラクター 1級 (NO.1415-000834)
*SCAJ Advanced Coffee Meister(No.144)
*SCAJ コーヒーマイスター(No.2835)
*SCAA/CQI Qグレーダー
*AEAJ アロマテラピーアドバイザー
*JAMHA ハーブコーディネーター
*JAMHA ハ-バルセラピスト
その他、関連資格有
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いかがですか?
素晴らしい経歴ですよね!
また、若くてお奇麗なのです。
待夢珈琲店にて・・。
昨年の11月17日に待夢珈琲店で、「日本の珈琲店と韓国のコーヒー事情」のテーマで講演をしていただき、コーヒー教室の生徒50名が参加しました。
先ずは金さんが焙煎したコーヒー2種類のコーヒーをご用意してくれました。深煎り珈琲と、浅煎り珈琲で、どちらの珈琲も60gの豆を使い200ccを抽出するというデミタスコーヒーでした。各人がそれぞれどちらかのコーヒーを1杯飲みました。深煎りのデミタスは当店でもメニューにありますので生徒のほとんどは経験している味で、濃厚で苦みとコクの後に甘味が感じられる、とても上質でコーヒーらしいコーヒーでした。
しかし、浅煎りのデミタスには正直ビックリさせられました。生徒のみんなも初めて味わう味わいでいろいろな感想を言っていました。しかし、流石に本人を目の前にして辛口のコメントはなく、多くの方はその良さだけを表現していました。
「フルーティでまるでグレープフルーツなど柑橘系の果物を食べているよう」
「苦みが少なく甘味が感じられておいしい!」
「こんなコーヒーは初めて!」
などの意見が多く聞かれました。
そのあとに会場を旧店舗に移して、レクチャータイムとなりました。実はこの2種類のコーヒーが今回のテーマの核心だったのです。パワーポイントを使い、日本の老舗の珈琲店や自分の珈琲に対する思い、韓国のコーヒー事情などをわかり易くお話ししてくれました。
韓国のコーヒーの歴史は日本より浅く、数十年前まではそれほど良い豆が輸入されていなかったようです。ここ数年前からカフェブームとなり、いろいろなカフェや自家焙煎の珈琲店がたくさん開店するようになったそうです。
韓国の方々が好むコーヒーは、ほとんどがアメリカーノといってかなり薄いコーヒーで、ほとんどがアメリカーノのインスタント(ソリュブル)コーヒーかエスプレッソにお湯を入れて薄めるコーヒーで、日本とは違い、ドリップ式で淹れる濃いコーヒーを好む珈琲文化ではないようです。
スターバックスなどの深煎りエプレッソなどの世界的コーヒーチェーンなども多数出店して人気を博しているようですが、深煎り珈琲というよりも、ラテやカプチーノなどのバリエーションコーヒーとして楽しんでいて、ブランドコーヒーとして楽しんでいるようです。
チェーン店以外の一般の店もエスプレッソコーヒーを提供する店が多いようですが、なんと!「浅煎りのエスプレッソや薄くしたエスプレッソコーヒー」だそうです。特に、十何年前からのスペシャルティコーヒーの世界的流行により浅煎りコーヒーの薄いコーヒーに拍車がかかったようです。
今、ヨーロッパでも昔からのスタイルのミルクと砂糖をたっぷり入れて飲む深煎りエスプレッソコーヒー文化に加え、浅煎りエスプレッソコーヒーに砂糖だけを加えて香りを楽しむスタイルが流行しだしたと、以前オランダのバリスタの方にお会いししたときに聞きました。スペシャルティコーヒーの代表でもある、パナマ・エスメラルダ・ゲイシャも浅煎りにしてエスプレッソで楽しんでいるというのですからビックリ!
キムさんは日本の老舗「カフェ・バッハ」で数年修業され、その後、青山の大坊珈琲店の大坊勝次さんや、博多の珈琲美美の森光宗男さんなどに深煎りネルドリップの技術を学び、その他、日本の30年以上続く店舗の名人といわれる方々にも自らコンタクトを取って出かけては学ばれたそうです。いわゆる、日本式ドリップコーヒーをしっかりと習得されたのです。以前にも書いたように、世界で一番良質なコーヒーを提供しているのは日本のドリップコーヒーなのです。
2017年日本でのコーヒー修行を終え、韓国に帰国し仁川でコーヒービーンズショップ「コフィアシンドローム (Coffea Syndrome)」をオープンしました。韓国のアメリカーノの薄いコーヒー文化に日本式ドリップコーヒーの良さを知っていただこうと、インチョン地域のコーヒー文化、韓国のコーヒー文化の発展を目標に意を同じくしてくれる人々と共に、真においしいコーヒーを普及することを目指して日々コーヒー作りと教育に励んでいるのです。
キムさんだけではなく、近年、韓国にはこういった日本のドリップコーヒーの良さを勉強したいという若者が多くいて、数年前から、博多の名店を訪ねてくる韓国の珈琲関係の方々がたくさんいるというお話は森光さんはじめ博多の多くの珈琲友達から聞いていました。
近い将来、韓国のコーヒー事情は激変しているかもしれませんよ!これからのキムさんたちの活動を楽しみに見守り応援したいと思っています。
また、キムさんは韓国の珈琲雑誌にページを持っていて、日本の珈琲店の良さを多くの方に知っていただき、また、韓国のカフェの指標となるために日本で40年以上続いている老舗珈琲店を、雑誌に毎月1店舗づつ紹介しています(現在は終了しました)。日本の老舗珈琲店の経営理念や経営方法から、長く経営できた店の理念と哲学を紹介する事で韓国国内のカフェ経営者達が学ぶきっかけになってくれると良いのではとの考えで連載したそうです。
キムさんが掲げる「100年続くカフェ作り」というとても大きなテーマを実行するためのプロジェクトの一環として・・・・。
レクチャー
では、キムさんが雑誌の第一回目に書いた、冒頭部分と趣旨をご紹介いたします。
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「100年カフェ作りプロジェクト」・・・Coffea Syndrome 金 奈怜
‘老舗カフェ’の社会文化的背景と土壌 日本カフェ文化の始まりと発展過程
我が国の珈琲文化は1978年輸入自由化をきっかけに早く拡散された。珈琲への関心が高まり短期間で 技術的な発展を成し遂げて供給拡大と共に需要面でも驚く程の成長を積み重ねて来た。 グローバル時代に合わせ他国のコーヒーを直接見て感じようとする専門家達もたくさん増えた。それに従って新しい情報とトレンドを得るために海外のコーヒー産地に訪問したりコーヒー専門店を回る’コーヒーツアー’が普遍的な事になった。
我々よりも先にコーヒー文化の花を咲かせた日本に対する関心度も高まった。日本の歴史と技術を把握して文化に触れるために多くのコーヒーマン達が日本の有名なコーヒー屋を回りながらコーヒーを味わって雰囲気を感じるようにしている。
一方、韓国コーヒー市場への日本人達の関心も高まった。毎年多くの日本のコーヒー専門家達が韓国 を訪れている。国内のカフェのインテリアとビジネス方式を見るためである。コーヒー関連の展示会を観覧したり、市内隅々のカフェを回る日本人も少なくはない。彼らはまず、国内コーヒー専門店の規模とおしゃれなインテリアに驚く。それと同時にソウルの主要商圏を中心にぎっしりと並んでいるカフェ達を見て懸念を表している。
過去の日本のように韓国のコーヒー市場もたくさんのカフェが短期間に増えたようであると専門家は 診断する。飽和と整理の道を歩んだ日本の〝痛い過去″が韓国でもまた再現するのではないか懸念を表している。日本の珈琲店市場は1990年前後を頂点に調停期を経ていた。一時期15万件に上るカフェもその半分くらいに減った。韓国の場合も市場が飽和状態に達してから全国のコーヒー専 門店の数もまた減少している状態である。競争が激しくなってから店を閉めるカフェが続出して開店休 業状態のところもだんだん増えている。 創業需要は減らない反面、激しく上がった賃貸料と人件費、各種規制などカフェ運営者達に不利な与件が足を引っ張って いる。1990年代以降、日本が経験した閉業ドミノと似たような現象 が韓国でも起きている。コーヒー専門店がレッドオーシャン を超え自営業者達の“墓”に漸落したのではないかという話があらわに出てきている状況だ。
そんな中でも名声を浴びているカフェはある。日本では開業100年を超えた‘カフェパウ リスタ’をはじめ30年以上も続けている喫茶店が並べている。韓国の場合も去年60周年を迎えた‘학림다방茶房’を筆頭に20 年近く続けて運営されているカフェも少なくない。その秘訣は何だろう。彼らは大変な時期をどうやって克服し て命脈を維持し保全して来たのだろう。
こんな質問に対する 答えを求めるべく30年以上続けられている日本の伝統的老舗カフェ20か所を選定して毎月一店舗ずつ紹介する。連載過程には直接的または間接的取材と資料調査を中心に日本の有名個人カフェを一つずつ扱うが、 国内コーヒーマン達の評価とアドバイスを添えながら客観性を加えて行くつもりだ。このためにはまず日本のコーヒー産業とカフェ文化の歴史について知る必要がある。‘長寿’のために創業者や経営者が持つ能力も必須要件ではあるが、政治と経済、社会と文化、民族性と個性、周辺環境など外部的要因も見過ごすことが出来ないためである。これに従って今回は日本のコーヒースタイルと文化的背 景、歴史的な流れについて探ってみる。
日本式コーヒーとは何か?
(補足:韓国ではカフェによって日本式コーヒーという形でコーヒーを提供するカフェが多い。ほとんどは味などが韓国風にアレンジされているところが多く、実際には韓国に長年住んでいる日本人からは故郷で飲んでいたのと違うと言われる事も多い。韓国人達からも味の否定的なところから起因して誤解される場合も多い。これは、日本と韓国のコーヒー文化と味覚の経験の違いから起因するもの であるため、日本人が作るコーヒーの味の良さをきちんと伝える必要があった。ここでは、筆者が日本で初めてコーヒーに触れて尊敬する先生と先輩のコーヒーマン達からコーヒーを学んで感じた事を 素直に書きました。それをご了承の上お読み下さい。)
多くの人達が筆者に“日本式コーヒーは何ですか?”と質問をする。筆者は日本式コーヒーを一言で “多様性が共存するコーヒー”と話している。多様な抽出方式を通じて日本の伝統的な食飲料文化と新 しい現代的なスタイルが日常生活と密接に交わって多様に共存しながら発展して来たからである。
日本のコーヒーは浅煎りから深煎りまで、幅広い焙煎技術と多様な器具を利用した抽出法でよく知ら れている。1908年ドイツのメリタ夫人が考案したメリタフィルタが普及された以降、日本では多様な 抽出道具が開発された。それとより繊細な抽出技術と焙煎技術を追求してコーヒー人達によるコーヒ ーの研究が活発に進められた事は日本のコーヒー文化発展につながった。実際に日本には100年を超える歴史の中で自家焙煎店、ハンドドリップ専門店、豆売り専門店、エスプレッソバー、サードウェーブスタイル等、様々な形でカフェが存在する。今まで我々が思っている、もしくは韓国国内で既存に知られている日本のコーヒースタイルは濃くてなおかつ苦いコーヒーという認識を持つ場合が多い。 それは独創性と深みのある味を求める一部のコーヒー職人さんの場合、深煎りコーヒーを好む傾向も中にはある。しかし、日本人だからと言って深煎りのコーヒーだけにこだわっている訳ではない。
焙煎の観点からコーヒーを分類してみると浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎りの4タイプに分ける事 が出来、各タイプは味の基準が存在する。コーヒー焙煎で浅煎りは大体1ハゼから2ハゼの前に煎り止めをしたもので、果実のような肯定的な酸味が主体である。中煎りは2ハゼが来る手前に煎り止めを したものでほのかな肯定的な苦みと共に明るい酸味が調和される。中深煎りのコーヒーは2ハゼが始まって一定時間が経過した後で煎り止めをしたコーヒーでしっかりとした飲み心地の良い苦みと共にほのかで明るい酸味が一緒に調和され、重厚な味わいを感じることが出来る。問題は深煎りである。
一般人にとって深煎りコーヒーは“苦い”という否定的な印象を与える恐れがある。日本で熟練な焙煎 技術を磨いた人が作る深煎りコーヒーではスペシャルティコーヒーで感じられるダークチョコレート のような肯定的な苦みと共に果実を思わせるような酸味、そしてその豆が持っている明確なハーブとフローラル、スパイスの香味成分が複合的に表現される。また日本のコーヒーの中で深煎りのコーヒーの味を決める基準は繊細なところがある。我々が深煎りと認識されるコーヒーで感じられる否定的 な苦みや燻り臭はかすかであってもオーバーロースティングと認識される。しかし、もし浅煎りから 深煎りまで焙煎の幅を最大限活かすのであれば、そのコーヒーが持っている潜在力と可能性を消費者にもっと幅広く提示する事が出来ると。
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いかがでしょうか?
キムさんは我々日本人以上に歴史的観点から日本の珈琲の良さを、真の珈琲の良さを理解している数少ない「珈琲人」なのです。これからの活躍がとても楽しみですし、応援していきたいと思います。
いま日本では、焙煎セミナー等で少し習ってすぐにオープンする、サードウェーブ系のフルーティーで酸味が特徴の浅煎コーヒーを中心にした若手の自家焙煎珈琲屋が多く開店しています。
日本の若き焙煎士にも流行をそのまま受け入れるのではなく、まずは、コーヒーの生い立ちを知り先人の方々が守ってきたコーヒーを知り、金奈玲さんのようにコーヒーの本質を追求していってほしいですものですね。
コロナウイルスが収まり韓国の仁川に行き機会がありましたら、キムさんのお店Coffea Syndromeにぜひお立ち寄りください。
