東京田町の珈琲店 「ダフニ」・・・嶋中労氏の本より抜粋
いつもありがとうございます。
GWも終わり一気に暑い日になりましたね。6月過ぎると珈琲屋にとっては一番嫌な季節となります。湿度が高く蒸し暑く、焙煎後の冷却は短時間でおこなえず、かといって長時間かけて冷却すると湿気が入ってしまうし、焙煎もスッキリしないことが多くてとても難しい季節です。
安価な家庭用コーヒーロースター
近年、自家焙煎の盛況時代といわれています。
誰でも手軽に簡単に焙煎が出来る時代になってきたように感じます。私が珈琲教室を始めた30年前に、「今から(1987年)30年前の日本では、誰も家でコーヒーを淹れて飲むなどとは考えもしなかったです。これから30年後には、家で誰もが焙煎して飲む時代が来るかもしれませんよ」といったことを覚えていますが、実際、そんな時代になってきているように思います。
ネットで検索すれば家庭用の焙煎機は数えきれないほどありますし、値段もとても安いです。レベルの高い美味しい豆が焙煎できるかどうかはともかくとして、もう今は、自家焙煎は特別な事ではなくなってきました。
私の教室の生徒さんも十数人の方は自分で焙煎して楽しんでいますし、そのうちの何人かは自家焙煎の珈琲店の開店をめざしています。まだまだ、その方々は自家焙煎を特殊な技術ととらえているようですが、焙煎するということに限って言えば、欠陥のない焙煎機を購入しさえすれば誰にでも美味しい珈琲豆が焙煎できる時代なのです。
確かに、極めていけば経験と技術と感性にはゴールはありませんので、プロとしての感性の高い自分の珈琲を確立するまでには数十年、いや、一生かかりますが・・、その道を求めて焙煎する方は年々少なくなってきているように思います。いまは焙煎を手軽に修得できる焙煎セミナーなる商売があります。セミナーは一週間合宿で行われ、初めから機械焙煎を使い徹底的に先生のマニュアルを覚えさせるのです。
その後、驚くことに、早ければ3か月くらいで自家焙煎の珈琲屋を開店してしまいます。まさに私達一世代前の焙煎人にとっては考えられない時代になってきました。セミナーで簡単に会得した豆は、自分の焙煎ではなく、人から習った焙煎で、支給された豆を使い、ブレンドの配合もマニュアルがあり、すべてを他人から教えていただきますが、「自家焙煎」という看板を上げます。
確かに自分で焙煎するのですから自家焙煎でしょうけれども、私は「他人焙煎」ではないかと疑ってしまいます、正確に申し上げますと、自家焙煎珈琲チェーン店の店長になったような気がいたしますが・・・いかがでしょうか?
確かに、悪い珈琲ではありませんので、それはそれで認めなければならないのですが、私達がたどってきた「焙煎道」とは随分違いますので少し戸惑っていますが、それも時代なのでしょうね。
桜井美佐子(左)さんと私・・・渋谷ヒカリエにて
昭和40年代に関西の珈琲研究家・襟立博保さんがいました。東洋一素晴らしいドリップコーヒーを作られた方で、今では神話化しています。私が最も尊敬する方で、自家焙煎を始めて真っ先に勉強したのが「襟立珈琲理論」でした。
私の店の開店(1977年)の時にはもう亡くなられていましたので、直接お会いしたことはありませんが、とても素晴らしい方だったそうです。待夢珈琲店の店の入り口に飾られている「珈琲訓」は、襟立さんに関連した書物から抜粋させて頂きました。
襟立さんに珈琲論を教わった方に、東京田町の桜井美佐子さんがいます。
桜井さんとは東京渋谷ヒカリエでドリップ講座をやって以来のお付き合いで、その後いろいろと気に留めていただき勉強させ頂きました。お弟子さんの時代など、桜井さんに当時の修業のお話を伺いましたが、それはそれは厳しいものであったようです。
まず、はじめに「これを読みなさい!」と、段ボール一杯書物を持ってきたそうです。
しかし、その中には一冊もコーヒーの本が入っていなかったそうです。その中にあったのは、哲学書や人間形成の本などだったそうです。
「まずは人格を磨きなさい。人格がそのまま味となるのですから、品のある人間からしか品のあるコーヒーはできません」と言われたそうです。
私も35年焙煎をして、この歳になってわかるのですが、確かに焙煎は技術ですが、技術があっても美味しく品格のあるコーヒーが出来るわけではありません。物を創りだす私達クリエーターは、まずどんなものを作るかというイメージ、感性が最初なのです。そこで、そのイメージ通りに仕上げるにはどうすれば良いのかという技術が必要になってくるのです。
経験を積みいろいろな技術を磨き、どんな珈琲でも焙煎できるようになったとしても、感性のない方には美味しい珈琲は創れません。すべては感性の世界で、技術は後からついてくるものなのです。
しかし、感性はその人のもつ人格や人間性、品性で、理論でもありませんし理屈でもありませんので、本やネットで知識だけをいくら詰め込んでも育つものではありません。日常的に、美しい音楽を聴き、美しい絵画や芸術を鑑賞し、真の美味しいものを食し、美しい身なりを身に付けるなど、生活全般、常に美しい感性の豊かなものに受け入れる「人格」を磨かなければ育ちません。
簡単、便利、安いがテーマの現代のファーストフードでは豊かな感性は育たないと私は思っています。
6月5日、待夢珈琲店でダフニの桜井さんをお招きして、「桜井美佐子さんと珈琲の話でも・・」というタイトルの講座を開催いたします。桜井さんのネルで淹れるコーヒーをお飲み頂き、その後、会場を旧店舗に移し、桜井さんの珈琲の生い立ち、思い、理論などをじっくりお話しいただこうと思っています。
今のコーヒーセミナーではとてもうかがえない、「ものづくりの神髄」をお話しいただきます。たぶん桜井さんが単独で講習会を行うのは初めてではないかと思います。ほとんど自分の事を語ったことがない方ですので、とても楽しみにしています。沢山の方に聞いていただきたいですが会場が狭く、40人限定で、すでに珈琲教室の生徒さんで満員となってしましました。
このブログをご覧頂いている方には、講座後、内容を詳しく報告をさせていただきますので楽しみにしていてください。
尚、7月31日には旧「大坊珈琲店」の大坊勝次さんをお招きして「大坊勝次氏とコーヒーの話でも・・」を開催いたします。
