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イエメンのコーヒー栽培

「カート」文化の大きさ 写真左:マナハの近くにある、有名な村“ハジャラ”。イエメンでは、山や丘の頂上に家を建てるのが一般的で、部族社会の強さがよく分かる。

イエメン・コーヒーの生産量が増えない理由

  現在、イエメン・コーヒーの年間総生産量は、5400t(米農務省推測)といわれています。これは、農地面積の差もありますが、ブラジルの生産量の300分の1に過ぎません。
 イエメン・コーヒーの生産量は、毎年、減少の一途でしたが、ここ数年は、海外(主にヨーロッパ)からの経済開発支援により、コーヒー栽培が復活の兆しを見せています。それでも、まだまだ微増に過ぎません。
 イエメン・コーヒーの生産量がなかなか増えない理由としては、前にも書いたように、若者が海外に出稼ぎに行ってしまうための労働力不足や、コーヒーの栽培に適した産地のほとんどが険しい山岳地帯にあるため、大量生産ができにくいことなどが挙げられます。
 様々な原因が考えられますが、やはりイエメン人に欠かせない「カート」の存在が、大きな影響を持っていると言えます。
 イエメンでは、コーヒー豆が外貨獲得の重要な産業として位置づけられ、政府もコーヒーの栽培を奨励しています。険しい山岳地帯につくられたイエメンのコーヒー栽培地では、機械化が出来ず、手摘みで豆を収穫するなど、伝統的な栽培方法が行われています。生産量を上げるためには、何とかして栽培地を拡大するしかないのです。
 しかし、実際にはコーヒーの栽培地は、カートの栽培適地と共通していて、カートの問題がコーヒー量産の足かせになっています。

毎日の生活に欠かすことの出来ないカート

 イエメンの人々にとって、カートは毎日の生活になくてはならないものです。カート栽培地の人にとっては、コーヒー栽培のように1年に1回か、2回の現金収入ではなく、毎日、簡単に現金収入が得られる貴重な農作物なのです。カート市場は、イエメンの国内経済の30%を占めると言われ、コーヒー畑をカート畑に転作することがあっても、カート畑をコーヒー畑に転作するようなことはありません。
 カート畑を見ると、畑の周りを鉄条網で厳重に囲っています。もし他部族の者が勝手に入り込んだりすれば、撃ち殺されてしまうのは確実です。時には、畑の権利をめぐり激しい争いが起こることもあるようです。
 では、これほどまでにイエメンの人々を虜にする「カート」とは、一体どんなものなのでしょうか?
 日本の緑茶の葉ににているカートは、アカネ科の植物で、麻酔性を持っています。イエメンをはじめ、アフリカの東部やエチオピア、ソマリア、ジブチなどのイスラム教圏で主に栽培され、普及しています。
 カートは、各地にもうけられたスーク(市場)で売られています。値段は、カートの質によって、かなりばらつきがありますが、平均的なイエメン人が一日に稼ぐ給料の半分ぐらいといわれています。まさしく、カートをたのしむためにイエメン人は働いているといっても、過言ではありません。
 イエメンでは、一日の仕事が終わると仲の良い友達が、それぞれにカートを一束ずつ持って集まり、何時間もかけて世間話やおしゃべりをしながら、カート・パーティーを楽しみます。カートの若葉や新芽だけを何百枚と噛み、葉からでるエキスだけを、水やコーラと一緒に飲み込みます。ほっぺたがふくれるほど、大量の葉っぱを噛みためていくのです。
「カート」文化の大きさ「カート」文化の大きさ カート・パーティーは、ほとんど毎日のように行われていますが、金曜日(イエメンでは休日)には、特に盛んに行われます。イスラム教では、アルコールを飲むことが禁じられているために、このカート・パーティーは、我々日本人が仕事帰りに、仲間と「ちょっと一杯」といった行為と同じ感覚で、人間関係の潤滑油の役割を果たしていると思っていただくと分かりやすいと思います。
写真上左:その日の仕事が終わると、毎日のようにカート・パーティーが行われる。特に、金曜日には盛んに行われている。
写真上右:カート。イエメンだけでなく、アフリカの東部やエチオピア、ソマリアのイスラム教圏で主に栽培され、普及している。

カートをかめることが大人になった証になる

 噛み始めは苦いのですが、噛んでいくうちに、ほのかな甘みや、ほかにもいろいろな味が感じられるようになります。1時間も噛み続けると、カートの麻酔性の効果が効きはじめ、舌が饒舌になり、話が弾んできます。その後、だんだんと酩酊状態になり、とても気分の良い状態になり、覚醒作用からか、頭脳がとても冴えてくる感じがします。
 とにかく、やたら喉が渇くので、水やコーラは大量に必要です。水分の接種と共に、利尿作用もあるので、何度もトイレに行かなければなりません。私自身も何度か試しましたが、大量に噛んだときなどは、頭が冴えきってしまって、なかなか寝つくことができませんでした。
 こうして書くととても危険なもののように思われますが、習慣性はあっても、常用性や中毒性はないので、麻薬やマリファナなどとは根本的に違うようです。
 国の重要な会議も、カートを噛みながら行われると言われているくらいで、イエメンにおいてカート・パーティーは、貴重なコミュニケーションや情報交換の場所なのです。また、イエメン人がカートの週間を始めるのは、14~16歳からで、自分の出稼ぎでカートを購入します。成人男性の80%がカートを楽しんでおり、労働者として1人前になったという、大人の証でもあるようです。一説には、コーヒーの飲用よりも、歴史が古いといわれていて、イエメン人の生活に深く根付いているのです。
「カート」文化の大きさ「カート」文化の大きさ 生活習慣の面からも、イエメンではカート栽培が重要で、なかなか簡単には、コーヒー豆の生産量を増やすという訳にはいかないようです。日本にはまったくなじみのない「カート」という文化的な背景が、イエメン・コーヒーの生産にも深く関わっていることがわかっていただけたと思います。
写真上:カートの若葉や新芽だけを何百枚と噛み、エキスだけを水やコーラと一緒に飲み込む。ほっぺたがふくれるほど、大量に口に含みます。


コーヒー原産地報告  『待夢珈琲店』今井利夫

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